就職活動、いわゆる「就活」について
筆者が思う悪い点を指摘する、というのがテーマの本。
実際、私も専門学校で就職活動を行う学生を指導しているため
就活の実態はかなり周知しているが、
この本は事実を書いている部分もあるものの、
「企業ごとに状況がかなり異なる点」についても
とにかく悪い場合の内容をひたすら書く傾向にある。
就職活動に必須の自己分析に関しても
「何も考えずに生きてきたバカ学生が自己分析しても
『バカでした』という答えしか出てこない」と断言し、
「自分はバカ学生だった。勉強もサークルもろくにやってこなかった。
でも将来は○○な仕事で世界を変えたいと思っている」
と言い切れる学生の方がよっぽど好感が持てる、とまとめる始末。
面接でこんなことを言う学生が本当に採用されるだろうか。
本には「99%の学生にとって資格は無意味」とも書いているが
ある一定レベルの知識を保証する手段として資格が有効なことは間違いなく、
特定の資格取得者しか受験を受け付けない企業が実際にある。
体育会系で精神力、体力、縦社会への順応さをアピールする学生に関しても
「体育会は有利というわけではなく、それだけでは評価できない。
組織に守られて育ったがゆえに『実は精神的に弱い者も多い』という声が
各社の採用担当者から聞こえてきた」などと根拠の怪しい理屈を出す。
体育会系というだけでプラスになることはなくとも、
その学生個人の貴重なアピールポイントには違いないはず。
「体育会系は精神的に弱いと思われてしまう」ように決め付けるだけの
ネガティブな意見は意味がない。
帰国子女に関しても
学生「アメリカに6年間住んでいたので英語が得意でTOEICは800点台です」
面接官「そうですか。英語力がおありなのですね。
(帰国子女ならそれくらい取れて当たり前じゃん。英語だけかよ、こいつ)」
と、かなり感じの悪い面接例を書いている。
この学生の発言の本質としては「帰国子女」のアピールではなく
「英語力」に関するアピールのはずだ。
この本が書くように「語学ができるだけでは仕事にならない」のは事実だが、
他の学生と同レベルの技術や知識があった上で英語までできれば
かなり強力なアピールポイントになることは間違いない。
就活というものはその個人が持っている複数のポイントをアピールし、
その総合的な評価が他の受験者と比較して上回っていれば合格となるのだ。
それらを個別に取り上げて否定しても意味はないし、
ひとつひとつが小さな内容であっても積み重なると大きな評価につながる。
各章の最後にある「まとめ」は特にひどく、
非常に偏見に満ちた内容が箇条書きされている。
全体的にとにかくマイナス点ばかりを取り上げていて
就活している学生がこれを読んだところで
「結局どうしていいのかわからない」
「今までやっていたことはマイナスアピールになるのではないか」
と、路頭に迷ってしまうだけではないのか。
企業の実態を調べる方法としても
「○○という制度があるかどうかだけでなく、
人事担当者や先輩社員に『具体的に』質問するといい。
『その制度がウリだと言うのですが、
実際に活用した社員は1年間で何人いて、
従業員のうち何割ですか?』など、事実やデータを確かめるといいだろう」
と書かれているが、そんなことを不躾に聞いても
印象の悪い学生だと思われるだけだろう。
また、
「OB・OG訪問などをする際もぜひ企業が用意した人だけでなく、
さまざまな部署の人、年次の人と会うことをおすすめする」
と言うが、そんなことが現実問題として可能だろうか。
ただでさえ緊張しているときに、対応してくれた人に交渉して
同期や先輩などを紹介してもらうなんてことはなかなかできない。
アドバイスする身として何でも知っていて
有効なコツを教えているかのように書いているが、
実際に学生の状況や感情を理解しているように思えない。
就職活動・採用方法のシステムや
学生の自己アピールの仕方を批判するだけなら誰でもできる。
この本を読んで
「自分の用意していたアピール方法では通用しないんだ」
「結局、自分の今の状況ではいい内定が手に入るはずがないんだ」
と諦めてしまうのは非常に問題だ。
結局のところ就活というものは、早くて多くの準備と行動をし、
たくさんの努力をした学生ほど希望に近い内定が手に入るのが事実なのだ。
学生には「勝ち組就活生になるための本」を読んで、
正しい対策をすることをオススメしたい。