レビューブログ【レブログ!】

映画、アニメ、ドラマ、マンガ、書籍、英語読書の感想(ネタバレなし)が6000件以上!


世界でいちばん透きとおった物語

有名な作家の不倫相手との間に生まれた青年が
母の死後にある人物からの連絡を受ける話。


「予測不可能な衝撃のラスト」「ネタバレ厳禁」
「電子書籍化は不可能」などと煽る宣伝文句が添えられた
いわゆるどんでん返し系の作品だが、
その期待に十分見合うだけの大きな衝撃が得られた。


難しい言葉も回りくどい表現もなく
小説としても非常に読みやすい文体で、
常に緊迫感がある引きの強い筋書きで面白く、
テンポもよくて読み進める手が止まらなかった。


話の途中で出てくる謎の意味にはすぐ気づいたため、
「この程度で衝撃の結末なのか?」と心配になったが、
そういう次元を大きく超えたトリックに驚かされた。


読破するのにちょうどいいボリュームと期待を裏切らない仕掛けで
普段あまり小説を読まない人にも
ひとつのエンターテインメントとしてお薦めできる1冊。

ルビンの壺が割れた

男性がSNSのメッセージ機能を通じて
ある女性とやり取りしていく話。


送られたメッセージ内容のみで構成された作品で、
妙に丁寧すぎる文面に不気味さを感じながらも
少しずつ関係者の人柄や過去や見えてくるようになっており、
その中で語られる当時の状況が映像として浮かんでいく。


そして後半は新たな事実が次々と語られ、
新たなメッセージを読むたびに各人物の印象がガラリと変わり、
ページをめくる手が止まらなくなるこのスピード感が本作の魅力。
170ページとそれほど長くないボリュームと
読みやすい文章のおかげで一気に読んでしまえる。


ラストで一気に秘密が明かされるどんでん返しタイプではなく、
2人の間で手紙がやり取りされるたびに
それまでの印象が塗り替わるタイプの面白さが味わえた。

奇想、天を動かす

年老いた浮浪者が乾物屋の女性店長を刺殺した事件で
関係者の素性や動機を探っていく刑事の話。


殺人事件ではあるものの特に凶暴性や異常性も感じられず、
ただのホームレスが衝動的に起こした行動のように見える状況が
まったく無関係と思われた要素と少しずつ結びつき
その動機や人間関係が明らかになっていく内容。


全体的にかなりスローペースな展開と
不可思議な小説がたびたび挿入される構成のせいで
最初はあまり引き込まれないのだが、
断片的な情報が少しずつ1本につながって
ジワジワと全体像が見えてくる後半は割と引き込まれた。


偶然が重なって生まれた部分もあるが、
奇想天外な状況がすべて説明されるので納得性も高く、
ミステリーとしての読後感は悪くなかった。

きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」

偶然立ち寄った資産家の屋敷で
お金についての概念を教わる中学生の話。


社会におけるお金の役割や働きについて
主人公である中学生が俯瞰的な視点でとらえられるよう
経済について少しずつ噛み砕いて説明する内容。


小説という形のおかげで身構えずに読むことができるが、
情景描写や心理描写が挿入される分だけ
説明が回りくどく感じる部分はある。


主人公の中学生と同様に経済について不慣れな人が
お金を軸とした社会構造について理解するための入門書。

プロジェクト・ヘイル・メアリー<上・下巻>

ある任務を果たすために宇宙船に乗る男性の話。


導入部から引き付けられる展開と読みやすい文章で、
自分の置かれた状況がまったくわからない主人公が
周囲の様子を手がかりに推測していく現在の描写と
そこに至るまでの経緯を描いた回想シーンが
ジワジワと結びついていく流れに引き込まれる。


ひたすら主人公の主観視点で展開するだけに感情移入がしやすく、
未知のもの対して論理的な思考を駆使して
予想と実証を繰り返していく様子が気持ちいい。
かなり深刻な状況なのにもかかわらず、
常にコミカルな雰囲気が漂うのも面白い。


全2巻合わせて700ページほどと結構なボリュームだが、
読み始めたら止まらない引きの強さがあり、
知的好奇心がグリグリと刺激される。
危機的な場面が何度も訪れて盛り上げる上に
その解決法にもいちいち興奮させられる。


理系の人向けではあるが、
地球とは違う世界が味わえるSFの傑作。

十角館(じゅっかくかん)の殺人

十角形の形をした特殊な屋敷に訪れた7人の大学生と、
その建築家と同居人が殺された事件を追う男たちの話。


身動きが取れない中で事件が起きていく島と
半年前に起きた殺人事件の手がかりを追う本土との
2ヶ所の出来事が同時並行で描かれていくが、
会話が多いのでサクサクと読めるし、
どちらの状況も興味をそそられるようになっている。


島にいる7人はミステリー研究会ということもあって
状況を論理的に分析して進めていくところは好印象だが、
のメンバー同士が外国人の名前で呼び合う独特の設定のせいで、
性別や雰囲気がイメージしづらいのは難点。


最後に全貌が明かされるどんでん返し系の筋書きなので、
読んでいる途中は70点程度の印象でも
ラストで一気に満足度を上げてくれるかと思ったが、
いざ真相を読んでみると計画が雑で行き当たりばったりな部分も多く、
手が混んでいる割にそこまでの衝撃を感じないオチだったのは残念。


ミステリーの傑作として必ず名前が挙がる1冊だが、
残念ながらそこまでの面白さが感じられない読後感だった。


【関連作品のレビュー】
十角館の殺人(実写ドラマ)

クラインの壷

まったく別の世界に入り込んだ体験ができる
新型のゲーム機のテストプレイに協力する話。


最近話題のVR技術どころか、スーパーファミコンすら
発売されていなかった1989年の作品だが、
全身の感覚をシミュレートする機械の描写が素晴らしく、
本当にそういう新技術があるようなリアリティを感じる。


ゲーム内の世界観や人物設定はややこしくて混乱するが、
本作の醍醐味はゲーム機の外の部分なので
あまり気にしなくても特に問題はない。


非常にテンポのいい文章で
小説に慣れていない人でも読みやすく、
SF、ミステリー、恋愛、アクションなど
いろいろな要素が楽しめるエンターテインメントの傑作。

人間椅子

江戸川乱歩の代表作のひとつで、
外交官の妻に椅子職人からの奇妙な手紙が届く話。


ほぼ全編が手紙の文面で構成されており、
送り主である椅子職人の独白で完結する短編だが、
非常に丁寧で紳士的な口調を通して
いろいろな情景が浮かんでくるとともに
彼の変態的な嗜好が伝わってくるところにゾクゾクする。


椅子に座って手紙を読んでいるだけの話で
恐怖感やフェティシズム、刺激的なオチなど
いろいろな味わいがあって満足度が高かった。


【関連作品のレビュー】
人間椅子(1997年公開映画)
山田全自動の日本文学でござる(マンガ)

残像に口紅を

作家である主人公が友人と共謀し、
言葉が少しずつ失われていくとともに
その文字によって表現されていたものも
消失していく世界を体験する話。


50音に濁音・半濁音を加えた言葉がランダムで少しずつ消えていき、
それに伴って世の中から物体や概念や表現が失われていく話だが、
その内容を伝える文章自体も
残存する文字だけを使って書かれているのが面白い。


使用頻度の低そうな文字から消えていくのは仕方がないが、
一番最初に消えるのが「あ」で、
以降、この音が本文で一切出てこないという不思議な感覚は
本作でしか味わえないものだろう。


消えてしまったあとはその文字が使えなくなるため、
人名に対して事前に意識しておかないと
誰が消えたのかハッキリしないという不便さはあるが、
一般的な呼び方ができなくなっても別の言葉で表現したり
回りくどい言い方で伝えようとするノリも新鮮。


かなり実験的な作品で、言葉が失われても
どこまでの内容が表現できるのかという意味では興味深いが、
反面、表現に制限が出るためにスピード感や娯楽性が犠牲になる。


ストーリーとして惹きつけられる部分はあまりないので
あくまで新しい試みを体感するための作品。

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

将来の希望が持てないまま漫然と暮らす中学生の少女が
都会から来た変わり者の転校生と交流していく話。


限られた世界で生きる中学生らしく、
家族と友人程度しか登場しない世界観で、
不自然な言動を繰り返す転校生の背景が
少しずつ明らかになっていく展開。


ただ、キャラクターには魅力を感じることができず、
予想通りの人物像が明らかになっていくだけという印象だし、
筋書きについても冒頭で明かされた結末に向かって
じわじわと近づいていくだけなので、
世間の評判に見合うだけの面白さを味わうことができなかった。


「弾丸」という表現やウサギの件など、
明確に説明せずモヤモヤさせる要素がある一方で
ストーリーについては特にひねったところがなく、
引き込まれるような部分が見つからなかった。

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